【ラーメン業界本格参入】松屋フーズHD×六厘舎買収の裏側──過去の成長戦略から読む九十億円ディールの本質。M&A実績まとめ

グルメ

牛丼チェーン「松屋」を展開する松屋フーズホールディングスが、つけ麺「六厘舎」などを運営する松富士を約九十億円で買収したニュースは、ラーメン業界だけでなく外食・M&Aの文脈でも大きなインパクトを与えています。この記事では、この買収の狙い、Xで話題になった解説ポストの内容に加え、松屋フーズHDの過去の成長戦略やM&A実践の文脈も踏まえながら、ラーメン業界再編の行方までを整理します。

松屋フーズHDによる六厘舎買収の概要

松屋フーズホールディングスは二〇二五年十二月十五日、つけ麺「六厘舎」などを展開する株式会社松富士の全株式を取得し、完全子会社化すると発表しました。取得価額は約九十億円台前半とされ、二〇二六年一月初旬に株式譲渡が実行される予定で、六厘舎や舎鈴などを含む百店規模のラーメン・つけ麺ブランドが一気に松屋グループ傘下に入ることになります。

松富士は旗艦ブランド「六厘舎」に加え、「舎鈴」などのブランドを中心に主に関東で店舗を展開し、直近決算では売上高百億円前後、営業利益数億円、純資産十数億円という規模です。売上は右肩上がりで成長している一方、営業利益率は一桁前半と、収益性改善の余地が大きい企業と言えます。

Xで話題の「九十億円の意味」解説

このニュースを受け、X上で大きな注目を集めたのが、製麺所三代目としても知られる丸山晃司さん(@koji62)の解説ポストです。「松屋フーズHDが『六厘舎』などを運営する松富士を九十億円で買収」という見出しから始まり、公開決算をベースに「なぜ松屋はこの巨額を出したのか」を経営戦略の視点で噛み砕いて解説しています。

丸山氏は、売上高約百億円・営業利益数億円・純資産十数億円という数字から、「純資産に対して数十億円規模の『のれん』を上乗せして買っている」点を強調します。現在の利益水準だけで見れば回収に二十年以上かかる計算になり、一見すると高値掴みにも見えるが、そこにこそM&Aの妙味と松屋の長期的な成長戦略が表れている、というのが同氏の主張です。

松屋フーズHDのこれまでの成長スタイル

松屋フーズHDは、これまでM&Aに積極的な企業ではなく、自社開発ブランドの出店による「自前成長」を軸に事業を拡大してきました。牛めしの「松屋」、とんかつの「松のや」、カレー専門「マイカリー食堂」、すし業態「すし松」など、主要ブランドはいずれも内製で立ち上げ、多店舗展開でスケールさせています。

国内の大型M&Aについては、公表されている案件はごく少数で、「直近二十年前後で目立つ買収は一件程度」という分析もあり、買収には慎重なスタンスだったと指摘されています。一方で、二〇〇〇年代には海外展開や食品事業強化を目的に、食品関連会社の営業の一部を譲り受けるなどピンポイントなM&Aを行った事例が同社レポートに残っており、「必要なピースを補うためのM&A」は経験済みでした。

ラーメン・麺類事業を「第三の柱」に

そんな松屋フーズHDが、近年明確に舵を切り始めたのが「ラーメン・麺類事業」です。同社は二〇二五年夏頃に新ラーメン業態「松太郎」を出店し、成長余地の大きいラーメン市場を新たな収益の柱とする方針を示していました。

今回の松富士買収に関するリリースでは、「麺類事業の拡充によりグループの成長を加速し、牛めし・とんかつに続く第三の柱を構築する」と明言しています。自前でゼロから全国チェーンを育てる従来型のやり方ではなく、すでに強いブランドと店舗網を持つ六厘舎グループを取り込むことで、一気にギアを上げていく戦略だと言えます。

松屋から見た「九十億円」のロジック

丸山氏がポストで指摘しているポイントは、「松屋は今の利益を買っているのではなく、シナジーによって改善した将来のキャッシュフローを買っている」という視点です。松屋フーズHDは、牛めし・とんかつ業態で培った調達力、セントラルキッチン、物流網、店舗オペレーション、人材教育、システムなどのインフラをすでに持っており、これを松富士に適用することで利益率を大きく改善できる余地があります。

もし営業利益率を一桁前半から中盤〜後半にまで引き上げ、売上規模も維持・拡大できれば、営業利益は現在の倍以上に到達しうるレンジに入ってきます。その水準の将来キャッシュフローを前提にすれば、九十億円という買収価格は「高い」とは言い切れず、時間をお金で買う成長投資として合理的だと評価できるわけです。

売り手・松富士側の出口戦略としての妙味

一方で、売り手である松富士にとっても今回のM&Aは「きれいな出口戦略」になっています。同社はファンドや創業者株主のもとで店舗数と売上を伸ばし、ここ数年で売上高を大きく積み上げてきており、M&A専門メディアでも「成長性とブランド力を兼ね備えたラーメン企業」として紹介されてきました。

丸山氏は、決算推移を踏まえ「数年かけてExitを見据え、ブランドと店舗を磨き上げてきたプロの仕事」と表現しており、成長フェーズを駆け抜けたうえで、松屋という有力な買い手にバトンを渡した好例と位置づけています。結果として、松屋は成長性の高いブランドと店舗網を取得し、松富士側は高い企業価値での出口を実現するという、双方にとってウィンウィンのディールになっています。

Xでの反応とラーメン業界の本音

今回の六厘舎買収は、ラーメン店主や業界関係者、投資・M&Aに関心のある層を中心に、X上でも大きな話題となりました。ラーメン凪のいくた氏(@SatoshiIkuta)は丸山氏のスレッドを「わかりやすい」と評して共有しており、ラーメン業界のプレイヤーから見ても納得感のある分析として広がっています。

一般ユーザーの声としては、「六厘舎が松屋グループ入りすることで駅ナカや郊外ロードサイドへの出店が加速しそう」「セントラルキッチン化で味やボリュームが変わらないか不安」「海外で六厘舎が食べられる日が近づいたのでは」といった期待と不安が交錯するコメントが目立ちます。加えて、「ラーメン業界の再編が一気に進みそう」「個人店はますます差別化が必要になる」と、業界構造の変化を意識した意見も多く見られます。

ラーメン業界のM&Aトレンドと過去事例

六厘舎買収は、単発のニュースというより、ラーメン業界全体でM&Aが増えている流れの中に位置づけると分かりやすくなります。人手不足、原材料費の高騰、光熱費や家賃の上昇といった環境変化により、個人店や中小チェーンだけで生き残るのは難しくなりつつあり、「大手グループの傘下に入る」ことが現実的な選択肢になりつつあります。

ラーメン以外でも、鳥貴族HDが焼き鳥チェーン「やきとり大吉」を買収した例のように、同業態のブランドを取り込みながらスケールさせる動きが続いています。また、餃子の王将や日高屋などの外食チェーンも、不採算店の整理や業態転換を通じて、チェーンとしての収益性を高める「選択と集中」を進めており、外食業界全体が再編フェーズにあると言えます。

松屋フーズHDのM&Aは件数こそ少ないものの、「寿司事業の獲得」「製麺の内製化」「強力ラーメンブランドの取り込み」と、現在の業績・事業ポートフォリオに確実に効いている打ち方になっています。integroup+1​

これまでの松屋フーズのM&A実績と位置づけ

  • コバヤシフーズインターナショナルの寿司事業営業譲受
    回転寿司・持ち帰り寿司・寿司居酒屋など十二店舗と加工センター等を譲り受け、寿司事業の基盤を獲得。
  • 亀製麺(麺類製造販売)の子会社化
    麺類とEC向け商品の製造を担う亀製麺を買収し、麺業態と通販ビジネスの拡充・内製化を狙った案件。
  • 松富士(六厘舎・舎鈴など)の子会社化
    つけ麺「六厘舎」を中心とするラーメンチェーンを買収し、麺類事業を牛めし・とんかつに続く第三の柱と位置づけた大型ディール。

直近業績への影響

  • コバヤシフーズの寿司事業
    すし業態はセグメントとして大きくはないものの、沿革上「すし松」など現在の寿司ブランドの源流になっており、都心の補完的フォーマットとして売上ポートフォリオを分散させる役割を果たしています。
  • 亀製麺
    買収時点では「連結業績への影響は軽微」と開示されており、短期利益よりも麺業態・EC商品の開発・原価コントロールなど中長期のインフラ整備目的が強いとされています
  • 松富士(六厘舎)
    松富士単体で売上高約百億円・営業利益約数億円を持つため、スケール面ではグループ売上の押し上げ要因となる一方、買収初期はのれん償却や統合コストも発生するため、短期利益への貢献は限定的と見られます。

成否の見解(現時点)

  • コバヤシフーズの寿司事業
    外食不況期に再生中の寿司事業を引き取り、自社の出店ノウハウでテコ入れしてきた経緯から、「小さくとも筋の良い多角化」として一定程度成功と言えるポジション。
  • 亀製麺
    亀製麺子会社化は、ラーメン新業態やEC商品の裏側を支える製造基盤として使われており、六厘舎買収とも組み合わさることで「麺類バリューチェーン内製化」のピースとして戦略的な意味合いが強い案件です。
  • 松富士(六厘舎)
    現時点ではクロージング前後の段階で、PL上の成果はこれからですが、決算コメントや有報では「麺類事業の本格的な成長ドライバー」として位置づけられており、成功かどうかは「利益率何%まで引き上げられるか」「海外・新フォーマット展開まで伸ばせるか」にかかっています。

全体として、松屋フーズHDのM&Aは「数は打たないが、既存事業とのシナジーが明確なものだけに絞る」という打ち方で、その結果として現在の多業態・麺類強化の土台になっている、という評価が妥当です。

松屋フーズHDの事例から見える今後の展開

松屋フーズHDは、これまで自社ブランドの磨き込みと出店で千億円企業へと成長してきました。その松屋が、ラーメンという新たな柱では六厘舎グループを九十億円規模で買収し、一気に全国レベルの店舗網とブランドを手に入れたのは、同社の成長戦略における大きな転換点です。

これは、今後も同様のM&Aを連発するという意味ではありませんが、「必要であればM&Aで時間をショートカットする」というカードを積極的に切り始めたことを示しています。六厘舎×松屋のシナジー創出がうまくいけば、他のラーメンブランドや外食チェーンにも同様の再編・資本提携の動きが波及し、ラーメン業界全体の勢力図が変わる可能性もあります。

ラーメン業界再編の行方

松屋フーズHDによる六厘舎買収は、「強いラーメンブランドが大手外食グループの傘下に入る」という流れを象徴する出来事です。今後も同様のM&Aが続けば、大手チェーン同士の競争は「ブランド力×スケール×オペレーション効率」の総合力勝負になり、資本力のある企業ほど有利になっていくでしょう。

一方で、そのカウンターとして、個人店やローカルチェーンは「資本や店舗数では勝負しない」「唯一無二の体験・味・物語で勝負する」というポジショニングがより重要になります。松屋フーズHDと六厘舎の九十億円M&Aは、松屋の成長戦略の転換点であると同時に、ラーメン業界全体に「これからどう戦うのか」という問いを投げかける出来事だと言えるでしょう。

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