(2025年11月5日)
MLBのストーブリーグが、早くも最初の「激震」に見舞われました。
シカゴ・カブスの今永昇太投手が、フリーエージェント(FA)となったことが、MLB公式サイトやESPNなど複数の米主要メディアによって一斉に報じられました。
報道によれば、カブスが2026年からの球団オプションの行使を辞退し、その後、今永投手本人も選手オプションを行使しなかったため、市場に出ることになりました。
誤解してはならないのは、これが「期待外れによる放出」などでは断じてない、ということです。むしろ逆です。彼がMLBで過ごした2年間、特に2024年の歴史的なルーキーイヤーと、2025年に「本物」であることを証明した活躍が、当初の契約の想定(4年総額5300万ドル)を遥かに超える価値を持つと市場が判断した、その「証明」に他なりません。
今永投手の契約は、彼が活躍した場合、より高い価値で市場の評価を聞くことができるよう、非常に戦略的に組まれていました。そして彼は、その期待を2年間かけて見事にクリアしてみせたのです。
この記事では、今永投手のMLBでの「衝撃的」だった2年間を振り返るとともに、FA市場で先発投手の「トップティア(最上位級)」の一角となった彼の、次なるユニフォームを徹底的に予想します。
第1部:MLBを震撼させた2年間。今永昇太は「本物」だった
「今永のフォーシームは、なぜ打たれないのか」
「あのスプリットは、打席でどう消えているんだ」
2024年、MLBの解説者たちと強打者たちは、この日本人左腕に答えを見つけられずにいました。そして2025年、彼らは新たな事実に直面します。「研究」され、対策を講じられてもなお、彼はローテーションの柱として機能し続ける、と。
今永昇太がMLBで刻んだ2年間の軌跡は、まさに「センセーショナル」から「エースの証明」への歩みでした。
2024年:歴史を刻んだルーキーイヤー
まずは、今や伝説となった2024年のルーキーシーズンを振り返ります。
- 登板: 29試合
- 勝敗: 15勝3敗
- 防御率: 2.91
- 投球回: 173.1イニング
- 奪三振: 174
- WHIP: 1.02
開幕から9試合連続で防御率0.84という、MLBの歴史(1913年以降)でも2番目という驚異的なスタート。打者の手元で「消える」と評された高回転のフォーシームと、完璧に制御されたスプリッターのコンビネーションは、メジャーの強打者たちを完璧に手玉に取りました。
この活躍により、彼は当然のようにナ・リーグのオールスターゲームに選出。シーズン終了後には、ナ・リーグ新人王投票で4位、そして投手最高の栄誉であるサイ・ヤング賞投票でも5位にランクインしました。
この時点で、彼はすでに「大成功」の評価を確立していました。
2025年:「2年目のジンクス」を乗り越えた証明
最も注目されたのは2025年シーズンでした。いわゆる「2年目のジンクス」。MLBの各球団が1年かけて彼を徹底的に分析し、対策を練ってくることは必至でした。
- 登板: 25試合
- 勝敗: 9勝8敗
- 防御率: 3.73
- 投球回: 144.2イニング
- 奪三振: 117
- WHIP: 0.99
数字だけを見れば、2024年の「怪物級」の成績からは見劣りします。シーズン中盤には左太もも裏の負傷による離脱もあり、オールスター明けは防御率4.70と苦戦した時期もありました。
しかし、この数字こそが、彼がFA市場で高く評価される「理由」なのです。
なぜなら、彼は「研究された上で」「対策された上で」、そして「怪我から復帰した後も」ローテーションを守り抜き、140イニング以上を投げ、防御率3点台(3.73)、そしてWHIP(1イニングあたり何人走者を出したか)に至っては0.99という、ルーキーイヤー(1.02)を上回る驚異的な数値を叩き出したからです。
これは、彼が「勢い」だけの投手ではなく、MLBのレベルに適応し、アジャストしながら試合を作り続ける「本物の先発投手」であることを証明したことに他なりません。
■ 2年間の通算成績
- 登板: 54試合(すべて先発)
- 勝敗: 24勝11敗(勝率 .686)
- 防御率: 3.28
- 投球回: 318.0イニング
- 奪三振: 291
- WHIP: 1.01
2年間で平均159イニングを投げ、防御率3.28、そして何より与四球率(BB%)がMLBトップクラスの低さを維持し続けた(2年間通算で4.3%)こと。この「安定感」と「ゲームメイク能力」こそが、全30球団が喉から手が出るほど欲しい「エースの資質」です。
第2部:「投げる哲学者」争奪戦! 次のユニフォームはどこだ?
ルーキーイヤーでサイ・ヤング賞投票5位に入り、2年目も確かな実績を残した32歳の先発投手が、FA市場に出る。これは「事件」です。
今永昇太は、間違いなく今オフのFA市場における先発投手の「トップティア(最上位級)」の一人として扱われます。2024年オフの山本由伸投手のような歴史的契約(10年3億ドル超)とまではいかなくとも、彼の実績と安定感を考えれば、5年総額1億5000万ドル(約225億円)規模の大型契約を提示する球団が出てきても何ら不思議ではありません。
彼の獲得に動く可能性がある球団を、いくつかのカテゴリーに分けて予想します。
カテゴリー1:資金力で覇権を狙う「メガ球団」
彼らは常に「最高の先発投手」を求めています。
- ロサンゼルス・ドジャース
大谷翔平、山本由伸という2人の日本人スターを擁するドジャース。今永投手の安定感は、ポストシーズンを勝ち抜く上で絶対に欲しいピースです。「日本人ローテーション」の形成という夢もあり、豊富な資金力を背景に獲得レースの最有力候補となる可能性は高いです。 - ニューヨーク・ヤンキース
エースのゲリット・コールに次ぐ強力な先発2番手を常に求めています。今永投手の制球力とメンタルの強さは、プレッシャーの大きいニューヨークの地でこそ輝くタイプかもしれません。左腕が手薄になりがちなヤンキースにとって、彼は完璧なターゲットです。 - ニューヨーク・メッツ
千賀滉大投手の成功例があり、日本人投手への信頼も厚いでしょう。「勝つため」の投資を惜しまないコーエンオーナーが、ドジャースやヤンキースへの対抗上、マネーゲームに参戦する可能性は十分にあります。
カテゴリー2:最後のピースを求める「優勝候補」
「あと一人、信頼できるエースがいれば」と考える強豪チームにとって、今永投手は最高の補強です。

- フィラデルフィア・フィリーズ
ザック・ウィーラー、アーロン・ノラ(※仮に残留した場合)ら強力な先発陣を擁しますが、ローテーションの「厚み」はいくらあっても困りません。熱狂的なファンで知られるフィリー(フィラデルフィア)は、今永投手の熱い投球スタイルともマッチするでしょう。 - ボルチモア・オリオールズ
若手野手が大爆発し、リーグ屈指の強豪となったオリオールズ。彼らにとって最大の補強ポイントは「経験豊富なエース級の先発」です。2024年のコービン・バーンズ獲得のように、本気でワールドシリーズを狙うための「一手」として、今永投手は理想的です。 - アトランタ・ブレーブス
常に投手王国を形成してきたブレーブスですが、スペンサー・ストライダーの怪我(2024年)など、不安要素も抱えています。今永投手の安定したイニング消化能力は、長期的な覇権維持のために非常に魅力的です。
カテゴリー3:”まさか”の残留と「ダークホース」
- シカゴ・カブス(再契約)
もちろん、カブスが再契約交渉に動く可能性も色濃く残っています。オプションを破棄したのは、あくまで「今の契約」を延長しないというだけであり、「彼が不要」という意味ではありません。
シカゴのファンは彼を愛しており、彼もまたシカゴでの2年間を高く評価しています。FA市場で他球団との「マネーゲーム」になった場合、カブスがどこまで本気で引き止めに動くか、その「本気度」が試されます。 - サンフランシスコ・ジャイアンツ
伝統的に日本人選手の獲得に積極的で、投手力の再建が急務です。西海岸の気候と、投手有利と言われる本拠地(オラクル・パーク)は、今永投手のスタイルに完璧にフィットする可能性があります。
結論:すべての選択肢を手にした今永昇太
2024年、今永昇太は「NPBのエース」から「MLBのセンセーション」へ。
2025年、彼は「センセーション」から「MLBの真のエース」へと、その評価を確立しました。
「投げる哲学者」と呼ばれる彼が、自らのキャリアと未来を深く考察し、どの球団を選ぶのか。彼の決断は、今オフのMLB市場全体を左右する、最も熱いトピックであることは間違いありません。

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